2011年8月5日金曜日

スクリーンツーリズムという言葉を利用して何をするか

8月2日に、富山のサンフォルテで行なわれた『スクリーンツーリズム&観光ICTシンポジウム』を見てきた。
もっと濃い展開になるのではないかという面々が登壇していたものの、微妙に入り口付近をなめただけで終了の時間が来てしまった様な内容だった様に感じる。

スクリーンツーリズムとは上手く片仮名にしたもので、要は映画のロケ地を観光地として利用しようというものだ。『冬のソナタ』がヒットした時の韓国へのロケ地ツアー。逆に、韓国、中国からも日本が舞台になっている映画のロケ地への旅行が話題になっている。アニメの場合、このロケ地ツアーを聖地巡礼と言い換え、2000年代半ば頃からアニメファンの間に、作中に登場する場所に行ってみるという動きが見られる。
富山県であれば、『true tears』の舞台として風景が利用された城端がまさに巡礼先になっている他、今年公開され、各地で単館上映が続いている『ほしのふるまち』でも、原作マンガの時点から舞台となった氷見市内で、背景に利用された場所を巡る人の話しを聞く。

地域にとって、映像、マンガなどのコンテンツを観光に利用というのは、果たしてどの様に実行していくべきなのか、個人的にはその辺りがいまひとつ理解できないでいる。
例えば、私が住んでいる氷見市であれば、巨匠今村昌平の『赤い橋の下のぬるい水』のロケ地で、この作品はカンヌにも出品されている。
この映画については、内容が大人向け過ぎてちょっと使えないというのが正直なところだろうか。タイトルにもなっている「赤い橋」は現在、この橋を赤く塗ったのは塗装業者ではなく、美術スタッフだ。ということがわかる塗装の剥げ方をしており、非常に味わい深いたたずまいになっているが、特にこれを、氷見に来たら見ておくべきものというPRはされていない。
『赤い橋の下のぬるい水』公開当時はPG-15とはいえ、観光客で15歳以下というのは、明らかに氷見市のターゲットではない。むしろ、赤い橋自体は整備しなくても、氷見を訪れて初めて作品を知り、帰宅してから『赤い橋の下のぬるい水』を見て、再び主人公を演じた役所広司の気分で氷見を訪れる50代、60代のおとうさんたちのリピートのきっかけとして、利用できるのではないかと考えるのだが、いかがなものだろう。
ターゲットへの訴求という意味では、どの様にしてターゲットのコンテクストに入り込むかが重要になるのだから、作品そのものが大人向けの良作であればこそ、大人への訴求という条件は十分にクリアできているものと考える。

スクリーンツーリズムは、要は「映像作品の追体験をロケ地でしませんか」という提案で、映像作品を旅のきっかけとして利用しようということに尽きるのだと考えるのだが、そのきっかけとなる映像作品自体は、舞台となる地域には全くコントロールできるものではない。ただ、自分たちにも理解できる、都合の良い良作が次々に目をとめてくれることに期待しつつ、フィルムコミッションを作ってみたり、淡々とロケ地として相応しいと思う場所を紹介してみたりというのは、いつか王子様がという姿勢に見えてしまう。受け皿は無いよりもある方が良い。しかし、積極的に利用する方法については考えられているだろうか。

シンポジウムでは、プロデューサーの阿部秀司氏が、映画を作る時の予算について10億単位の話しをしておられたが、単館系の映画のスタートなど、未だに手弁当だったりとにかくかき集めた300万とか500万という金額でスタートしている。
私がかつて『おそいひと』という作品の企画を立ち上げたときも、若手の芸術家を支援する基金から得た300万円がスタートの資金となった。
先日、この『おそいひと』の監督、柴田剛と会って直近の企画書を見せてもらったが、自分たちで資金調達もなんとかするということで、1200万を調達できれば御の字という規模で計画していた。しかも、最悪パイロット版の製作ということで、300万程度でロケハンとシナハンしながらとにかく撮影するパターンも……。という有様である。柴田の作品は『おそいひと』以降、普通に海外の映画祭にも出品され、現在では長編第一作『NN-891102』にも出品依頼が来る。しかし、国内的な知名度という意味では全く無名だ。
この映画の企画書を柴田剛と一緒に作っていたのは、結構長く続いたビデオシリーズなどを製作していた監督だ。TSUTAYAに行けば彼が製作したDVDがずらっと並んでいるが、それでも恐らく彼自身の名前を知る人は少ないだろう。

昨年、日本の映像文化の発展を促進する公益財団法人ユニジャパンが、まさしく「スクリーンツーリズム促進プロジェクト」としてシナハン、ロケハンに100万円以内という助成を行っていた。柴田剛らが考えていた、ロケハン、シナハン自体を作品に直結していくという方法であれば、この規模の助成が取れればパイロット版作成の1/2〜1/3の資金調達が完了することになる。
映像作家や作品にフォーカスして、情報収集を少しだけ真面目にやれば、国内上映作品のアーカイブやどんな監督がどんな作品を撮ったか、どんな作品が国内ではあまり上映されていない割に、海外に出ているかという事には簡単に辿り着くことができる。そんな意味ではICT活用の基礎部分は整っている。
昨今のアニメーションの公開形態を見れば、従来のスキームにこだわらなければ、パブリシティやマネタイズの面でも、映像作品とICTの親和性は十分に高いことは見て取れる。

映像作品に関わることで何かをしようと考えるのであれば、その根本となる「作品を作る」という点に注目すること、つまり、受け身をやめてスタートを押さえるという戦略は十分に検討の価値があるのではないだろうか。
幾らの予算で、何本の映像作品を世に送り出し、例えばそれを富山県のPR、観光誘客に利用するという長期的な積極策は、十分に立てられるものと思う。

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