むかしむかしあるところに、ひとりの男がいました。
まったくなにも変わったところのないただの男でしたが、道を歩いていて、サイコロをひとつ見つけました。何気なくそのサイコロを拾って、橋のたもとまでくると、次は天秤を見つけました。
男は、サイコロと天秤、どちらかを選ばなければならない気がして困り果てます。
なにせ、この二つのどちらかを選ぶというのが、これまでのなんでもなかったただの一生のなかで、本当に重大なことだと、直感したのです。
男が悩みに悩んでいるうちに、時間が経ちすぎて、世界の法則にまで影響が出始めます。
魚は用事がなくても木を登り、流れ星は消えてしまわないで地上に挿した蹄鉄があれば、それをくぐって再び空に帰るのです。
一回寝て起きてしまえば、なんとかなるですって?笑いごとじゃないんですよ。
さすがにあまりのデタラメはよろしくないということで、世界で起こる突飛なことはかなり控えられているんですが、男はまだ、どちらか選べなくて困っています。あまりに長く困りすぎて、橋につきものの何かになってしまい、あらゆる橋のたもとに立ち尽くす様になりました。
それが証拠に、どこかで新しい橋がかかった瞬間に、じっと目を凝らして橋のたもとを見れば、困り果てた男の姿を一瞬だけ見ることができる筈です。
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