2015年10月13日火曜日

言葉の裏側の木

むかしむかしあるところに、といっても地上のどこかは秘密ですが、一本の木が生えていました。
いいえ。その木は今も、確かに世界の何処かに生えています。
その木は、あらゆる言葉の裏側にあって、全ての木に似ていて、どの木とも全く違う。ただひとつの木です。
その木の根元には、かつてその木にたどり着くことのできた誰かの足跡がひとつ残っていますが、その人物がどこの誰なのかもわかっていません。
多くの人々が、その木を目指して無謀な冒険に出たり、その木を我が物にしたら世界を手に入れられるという、根拠の無い誘惑に駆られて自分を見失い、沢山の愚かなことを重ねていますが、木の場所の手がかりは未だに多くの謎に包まれています。 それでも、人が言葉を話すからには、確かに世界の何処かに木はあるのです。
ひょっとしたら、たった今、木の存在にとりつかれたあなたのお友達から、木を探す冒険へのお誘いの電話がかかってくるかもしれませんが、これまでこの木に関する野心の果てには、かならず悲惨な末路がついてまわる決まりになっています。
寝たふりをしておくのが一番かもしれませんね。

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