むかしむかし、あるところに大きな窓のお屋敷がありました。
そのお屋敷の主人は、月の見える夜にはずっと月を眺めることを、なにより楽しみにしていました。
ある夜のこと、家の主人がいつもの様に月を眺めていると、遠くの道を急ぎ足で歩いていくクマの後ろ姿が見えます。
普段は空しか気にならないのですが、その急ぎ様といったらありません。
あれはいったいどうしたことだろう。
とはいえ、すごく遠くを急いでいる姿が見えるだけなので、もう声をかけて止めることもできず、確かにクマだとはわかるものの、山向こうのクマだか笹谷のクマだか、クマがわからないので電話をかけてみたり、磁石で引き寄せることもできません。
それにしても、クマがあんなに大急ぎでどこかに向かうなんて、聞いたことがありません。しかもその方向にあるのは、なんにもない小高い丘だけのはずです。
月は眺めていたいですが、そろそろ窓からは見えなくなってしまう時間です。主人は思い切って、クマの後を追いかけてみることにしました。
やっぱり、道はただ思った通りの丘の方に続いています。なんにもなくて、そもそも誰も行かない場所です。
ところが今夜は、そこにテントを見つけました。テントの脇の長椅子で、クマがのんびり月を眺めている様です。
テントの脇に、長椅子がもうひとつあります。空には素晴らしい月が光っています。
こうなってはもう、声をかけるしかありません。
「お見かけしたところ、あなたも月を見るのがお好きな様ですね」
主人が声をかけると、クマが起き上がり、声をかけてきたのが窓のお屋敷の主人だとわかると、びっくりして椅子から転げ落ちました。
クマはあたふたしながら、きをつけをして、しどろもどろに主人に答えました。
「実は、あなたがずっと月を見ているのを不思議に思って、自分でも見る様になったら、月を見るのがすっかり楽しくなってしまったのです。私にはお屋敷は建てられないけれど、この丘の上にテントを建てて準備しておけば、一晩中でも月を見ていられることを見つけたので、月のいい夜はここに来ることに決めたのです。今日も、動物たちの会合があったんですが、終わるのが待ち遠しくて待ち遠しくて……。終わってから急いでここにやってきたのです」
二人は改めて月を見上げました。
なるほど、窓越しの眺めも素晴らしいと思っていたけれど、これなら月がでて隠れるまで、ずっと見ていられると、主人も感心しました。
もうひとつの長椅子は、クマがいつか屋敷の主人を招待できればと思って、用意してあったものでした。
屋敷の主人とクマは、時々示し合わせて月を見る会をやることにし、アップルパイや魚のフライで、月を見ながら楽しく過ごす友達になりました。もうひとつの長椅子は、クマがいつか屋敷の主人を招待できればと思って、用意してあったものでした。
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